覚せい剤依存症から回復したトシさんの話

はじめて使ったのは17歳
 僕がはじめて覚せい剤を使ったのは、17歳の時だった。15歳のころからいわゆる不良になって、暴走族をやって刺激を求めていた。仲間といっしょにメチャクチャやってると、心のさみしさが埋まったからだ。覚せい剤を使ったきっかけは、その時つきあっていた5歳年上の彼女からのさそいだった。彼女を好きだったから、覚せい剤を使うことにはなんの抵抗もなかったけど、捕まるのだけはこわかった。18歳のときには、もう覚せい剤なしにはいられなくなっていた。
1年で依存症になった……
 覚せい剤を買うお金は、自分の給料ではとてもたりず、母親の財布からお金を抜きっとっていた。
 覚せい剤を使うと自分が自分じゃなくなって、人と会えなくなる。家にもいられなくて、よく野宿した。そんなある日、母親が悲しんで泣く声が聞こえてきた。幻聴(実際には聞こえないものが聞こえること)だった。
 暴力団とギャンブルして、100万円負けてお金を払わされたこともあった。「今度こそやめたい」って思ったけれど、もうやめられなくなっていた。
今度こそやめようと思っては、また覚せい剤を使った。こうやって僕の依存症はひどくなっていき、人はこわがって近づかなくなって、どんどん一人ぼっちになっていった。
 ある時、けんかになって僕は包丁を5本も持ち出した。覚せい剤ですっかり頭がおかしくなっていたんだ。パトカーがきて、そのまま精神病院へ連れていかれた。  
遠回りの人生だった
 今、僕は5年覚せい剤をやめているけど、ふり返ると「遠回りの人生だったなあ」って思う。やめてしばらくは苦しかった。覚せい剤がなくなったとたん、自信も体力もすべてなくなったような気がした。そして、みんなが自分の悪口を言っているように感じるんだ。
 今は覚せい剤仲間とはすっかり手を切り、逆に依存症から回復することに取り組んでいる仲間といっしょにいる。近ごろ、「人間関係が少しらくになったかな」と感じる。1日1日やめ続けていく中に、回復があるんだ。
 覚せい剤って、自分からすすんで使う人ってたぶんいないと思う。たいていは、友だちとか、まわりの大人とかにすすめられて始めるんだ。僕も彼女からすすめられたのがきっかけだった。はじめからヤバイ人のさそいなら断わりやすいけど、身近な人だと断わりにくい。だから自分を守るためには、日ごろから何人もの友だちと関わっておくことが大事だよ。もし一人の友だちが薬をすすめてきても、ほかにも友だちがいれば断わりやすいから。一度覚せい剤に手をだしたら、必ず地獄を見る。僕の話、覚えておいたほうがいいよ。