ハル/34歳

今シンナーをやっています。
昔は幻覚が見えていましたが今はまったく見えません。
どうして見えないのでしょうか。
ちなみにシンナーを15年やっています。
それでもシンナーがやめられません。
ぜんぜん気持ちもよくなりません。
どうしてだと思いますか?
そしてどうしたら止められますかおしえてください。


【回答】めば
わたしの経験から言っても、昔は幻覚をよく見ていたのにだんだん吸引年数が経つにつれて、あまり幻覚を見なくなってきました。
科学的な根拠はありませんが、わたしなりにその理由について考えてみました。
わたしの有機溶剤使用歴は、使った製品の種類により、次の3つの時期に分かれます。
1:接着剤濫用期(14歳〜19歳)……プラモデル用ボンド、速乾性工業用ボンド
2:ラッカー・シンナー濫用期(19歳〜22歳)……第一石油類のラッカー・シンナー
3:トルエン濫用期(24歳〜27歳)……密売品
幻覚をよく見たのは、
1>2>3の順番となり、製品別で表せば、
接着剤>ラッカー・シンナー>トルエン  ということになります。
接着剤やラッカー・シンナーの場合、トルエン(=有機溶剤)以外の成分が幻覚に影響を与えるのではないかと思います。
また、若いときほど、使いはじめて間もない時ほど、しばしば幻覚を見ています。
幻覚の質について言えば、接着剤は、カラフルで荒唐無稽な夢のような幻視でした。
ラッカー・シンナーやトルエンになると(依存も進行してましたが)モノトーンの病的な錯視が増え、幻覚をみたのかどうかさえ、思い出せない程吸っている時の記憶が残らなくなってきました。
うまく説明しづらいのですが、酒井潔という人の書いた『悪魔学大全』という書物の中に「猶、先生の説によると幽霊と幻影とは其の出現する状態が違うとの事である。幽霊の方は地面と直角に立って出現するが、幻影の方は観者の脊髄と平行して現れるそうだ。例えば、観者が地面と四十五度の角を持つ椅子の背に凭れて居れば、出現した幻影も地面と四十五度の角度をなすという事だ。以って珍説奇論となす価値十二分にあろう」〜南方熊楠先生訪問記〜という一文があり、この中の「幻影=幻視」「幽霊=錯視」と置き換えれば伝わりやすいかもしれません。
でも、幻覚を見なくなったり、気持ちよくなくなったりというのは、耐性(薬物を使えば使うほど以前の量では効果が得にくくなること)に起因していると思います。
もう吸い始めたころの楽しみは味わえないとわかっていても、シンナー依存症で精神病院に何度か入退院を繰り返しても、わたしはなかなかやめることができませんでした。
いったんシンナーやトルエンを吸いたいという気持ちが沸き起こってくると、まるで足元に小さな円を描かれてそこから一歩も外に踏み出せない呪いをかけられたようになり、シンナーの入ったビニール袋を手にしてやっと、その強迫的な小さな円から逃れられるという日々でした。
私は薬物依存症(=シンナー依存症)という病気に罹っていたのです。
病院で解毒を終えたあと、薬物依存症のリハビリテーション施設につながりました。
そこにはわたしと同じ薬物依存症の仲間たちがいました。
一人でシンナーをやめ続けるというのは、とても大変で成功率も低いと思います。
一度、依存症について適切な治療をされている精神科を受診され、同時に薬物依存症のリハビリテーション施設の「ダルク」や薬物依存症のセルフ・ヘルプ・グループ「NA」のグループ・ミーティングに参加してみてください。
シンナーをやめて新しい人生をはじめる手がかりが見つかると思いますよ。
助けを求めることから回復ははじまるのです。